第4章女将が入ってきて「あんた、売られたから」
30分近く走ったろうか。タクシーは人気のない小さな船着場で泊まった。すでに辺りは暗く、涼しい風が吹いている。海の向こうに見えるのが●●●●●●らしい。薄明かりがぼんやりと見える。私たちは100円を払って小さな小舟に乗り込んだ。トントンと音を立てて、ゆっくりと島へ向かう。乗客は私達2人と、おじさん数人だけだった。こんな島、おもしろいかなあ ええやん、こういうのも
行き当たりばったりの性格にはあきれてしまうけど、振り回されるのはそんなにキライじゃない。夜の海を走る船に乗っていると、
なんだかロマンチックな気分すら覚えた。
彼は船が着くやいなや真っ直ぐに歩き出した。観光しようという気すらないようだった。たぶん疲れているんだろう。私はそう思った。Nという名前の旅館に入り、女将さんに率いられて10畳はあろうかという広い部屋に落ち着く。「ちょっと待ってて」ゆっくりする間もなく、彼が部屋を出て行った。宿代の相談だろうか。ここは温泉ないのかな。おいしいもの食べられるんかな。そんなことを考えるうちに10分20分と過ぎていく。彼は帰ってこない。遅いな。何やってるんやろ。
しびれを切らしたころ、さっきの女将さんが部屋に入ってきた。
「あんた、今、売られたから」