seikox’s diary

掲示板 http://9205.teacup.com/seiko/bbs 島に売られ泳いで逃げてきた女の復讐戦。人権問題、性被害に関心ある方、参戦ください

第10章泳いで逃げるなら夏の今しかない

f:id:mhonoo:20180603221750j:plain島に来てひと月ほど経った8月9日、私は18才になった。自分でもすっかり忘れかけていたのに、女将さんがどこからかショートケーキ2つを買ってきて、ささやかに祝ってくれた。「メグミちゃん、誕生日やろ」プレゼントとして小さな指輪をくれる女将さん。思わず涙ぐみそうになった。「残り50万だから、もう少しで外にも出れるわよ」こんな場所で誕生日を迎えるなんて思ってもみなかったけど、誰かに祝ってもらったことなど久しくなかった私は素直にうれしかった。幼いころから親との軋轢に悩まされていた私にとって、女将さんは本当のお母さんのような存在になりつつあった。ここにいるのも悪くないなと、この時ばかりは真面目に考えた。けれど同時に、この誕生日が島からの脱出を本気で思い立たせた日でもあった。18才の私がどうしてこんなとこにいるのか。このままだといつかあのバアさんたちのようになるんじゃないか。将来が急に怖くなった。そして私は、自分でもビックリするようなことを思いつく。…船に乗れないから泳いで逃げよう。それなら夏の今しかない…本気だった。プールでしか泳いだことはないけれど、クロールでもバタフライでもとりあえずはできる。必死でもがけばなんとかなるはずだ。昼の間、外を散歩するフリをしながら、飛び込むべき場所を探した。船着き場からマトモに岸を目指したのではバレバレだし、断崖絶壁からジャンプする勇気はない。まずは手ごろなポイントを見つけなければ。めぼしい場所はすぐに見つかった。人影はなく、沖を船が通る様子もない。ここからまっすぐ岸を目指すのだ。

ただ地図上では対岸まで500メートルぐらいしかないことになっているけど、見た感じその倍はあるような気がする。大丈夫だろうか。何度も何度もそのポイントを下調べに行き、人のいないことを確認した。泳げる、絶対泳げる。いつもそう思いながらも、青黒い海の色を眺めるうちに飛び込む勇気は萎んでいった。


次回、最終回、近日公開予定です。

悲しい勝利